「巨大なイトウとアリとバンブーロッド」
TOKYO ROD & GUN CLUB 田中 秀人
2015年 5月末のあの日。
ある一日の忘れられない出来事のストーリー。
今年もやってきた初夏の北海道。
ターゲットは道北の
巨大なイトウ。
そこからすべてがスタートする。
イトウは4月頃に産卵する。
この季節にイトウは産卵のため一か所に集まって来る。
ある意味一番釣りやすいタイミングだが、
産卵を意識して集まった魚を釣ることに
ためらいを覚え、中上流域でのイトウ釣りは5月の後半からにしようと決めた。
釣友の TOKYO ROD & GUN CLUBの同志、岩井とは申し合わせている。
いつまでも釣りができるように守りながら接しなければいけないと思う。
僕と彼とイトウとの紳士協定だ。
そんな思いを秘めて、今年もやってきた。
5月の末から6月初頭にかけて、
僕にとってのイトウ釣りオープニングシーズンの釣行だ。
今年はテーマがある。
一つはオリジナルのバンブー ノリクラロッド 58MH
で50cm~70cmのビッグトラウトを仕留めること。
もう一つは、プロトタイプで熟成を重ねる
アリ60と70でビッグトラウトを釣ること。
この2つのミッションを持って今年もやってきた北海道。
50cm~70cmのトラウトをアリ60&70で釣る。
この時期のこの河川ではトンギョがベイトフィッシュとなっていて、
7cmのスモールベイトに巨大魚が襲い掛かるシーンが何度も見られる。
まさにアリ70のサイズ。
これであの巨大なイトウを狙うのだ。
スモールベイトでビッグフィッシュ。
アリとノリクラロッドバンブーのテストに恐怖すら感じる巨大な相手である。
さてどうなることやら・・・
このテスト釣行の序章は、支流のオカッパリから。
いきなり、70cmクラスのイトウがアリ70を襲った。
プールの流れ込みでズドン。
ドバドバのファイトを抑えて、足元まで寄ってきたが
足場が高くランディングに躊躇する。
本日同行のチーム バーレの柴田氏は横でムービーを回している。
ランディングを頼もうと思ったがそんなこともあってセルフランディングで
強引にネットを突っ込むが・・・案の定、掬いそこなってバイバイ。
いきなり不穏なスタートに後悔の念がかぶさって襲ってくる。
「掬ってもらえばよかった・・・。」
気を取り直して、そのプールのテールにある駆け上がりを狙う。
そしてドンだ。
先ほどより2回りほど小ぶりだが、美しく元気な50cmアップの
若いイトウが食ってきた。
*(イトウ50UP)
今度はランディングのサポートを受けて無事ネットイン。
*(イトウ50UP顔)
70UPを掬いそこなった後なのでホッとしつつも、
逃した魚が悔やまれる。
完結していたらいきなりミッションクリアだったのに・・・。
ほどなくして移動、やってきたのは別の水系の本流。
上流域で産卵を終えたイトウは中流域まで下りてきて、
今まさに7cmサイズのトンギョを荒食いしている。
キャンプ地の横にある水路でもドバドバ捕食音が聞こえる。
いやがおうにもテンションが上がってくる。
日増しにコンディションを上げて体力を回復させている巨大なイトウ。
ゆったりと蛇行しながら流れる重い水勢にゴムボートを浮かべて、
岸際にトンギョの群れを追い込み激しく捕食するイトウを狙うのだ。
オカッパリで狙う70cm級がマックスのタックルバランスだが、
ボートからの釣りとなるとファイト中はボートで追っかけられる。
さらにボートが引っ張られることによりそれがドラッグの役目を果たす。
アシストしてくれることを考え合わせると、オカッパリのガチンコよりもう少し大型と戦えるだろう。
いや70UPでギリギリだろうか・・・。
そんな不安をよそにいきなり72cmのイトウが食ってきた。
まさかすぐヒットすると思わず、ネットも足の下。
バッグに入ったままのカメラも未だにスタンバイ状態にはなっていない。
流木に突っ込まれそうになるが、何とか引きずり出して、
同船の、チーム バーレ 工藤氏にネットインしてもらった。
「よしやったぞ!70cm以上あるぞ。」
しかしその直後の異変に気付く。
「あれ、カバンがない・・・」
ランディングのタイミングで防水の一眼レフカメラが入ったバッグを
流れの底に落としてしまったのだ。
「まずいぞ・・・この旅のすべての記録が・・・」
焦った。本当に焦った。
工藤さんも顔面が引きつっている。
まず陸に上がり、計測後に72cmのイトウを携帯のカメラで収め、
イトウをリリースして、バッグを落としたあたりへ。
70UPのイトウをアリとノリクラバンブーで狙うという今回の宿題をクリアーした瞬間だが、もはや喜ぶその余裕はない。
カ カメラが・・。
重いスプーンを付けて、底を探る・・・ない・・・。
バッグ・・バッグよ・・・
今度は柄の長いランディングネットをボトムまで突っ込んで、
シジミ漁のように底引きで探してゆく。
工藤さんお願いします・・・。祈る・・祈る・・・願う・・・。
すると・・・奇跡が。
「お!重い!!!」ネットにカメラの入ったバッグと、つくだ煮状にゴッチャリと収められたアリ60&70プロトのルアーたちが大量に収まったルアーケース。
コーヒー色のステンで底が見えない川底からすべてが生還した。
目測で掬い上げた天才!工藤さん!凄いぞ!
「おおーっつ。」
すかさず二人の雄叫びが上がった。
工藤さん、本当にありがとうございました。
あとで気が付いたのだが、携帯の72cmは全く記録されてなくてデータに残っていない。
いかにテンパっていたのか。
そしてカメラが出てこなかったら、この釣行の全記録がすべて台無し・・・。
アリのプロトもごっそり川底に葬り去るところであった。
今考えただけでもゾッとする。
さてこれで流れが変わったのか、運が向いてきたのか。
運命のビッグファイトが始まる。
「この辺りに廻ってくるんですよ。昨日ここで2本出ました。」
心強い工藤氏のアドバイス。
工藤さんは30年近くこの川に通い続ける、スペシャリストだ。
「アッツ・・いるいるデカいのが。」
グワンと尾鰭が見えた。
反射的にその1.5m位上流にキャストしてアリ70を少し沈ませ、
キラッツキラッツキラッツ3回目の軽いトゥイッチのリズムに
水面が大きく揺れて体をよじる巨大な頭が見えた。
丸呑みだ。・・・・ほんの一秒送り込んで遅合わせでドカン。
工藤さんが叫ぶ「喰った・・喰ったぞ。」
そこからは限界のファイトだ。
グリングリンに体をよじって、ボートの下に突っ込もうとするが思いっきり体をためてロッドのバットパワーに託す。
ライン12lbナイロン、ショックリーダー20lbのフロロ。
メインラインがいくか、丸呑みされたショックリーダーが歯でいくか、
ロッドが折れるか・・・。
覚悟のファイトを耐えてあの巨体が浮き上がってきた。
「デカい!頭がデカいぞ。ネットに入るか???」
*(92cm イトウ 顔)
あとは工藤さんに頼るしかない。
このサイズにひるみながらも、ギリギリのネットイン。
ネットの中だから正確にはわからないが、間違いなく80cm以上はあるだろう。
写真撮影のため陸に上がれる場所まで帰る。
途中仲間のボートとすれ違い声をかける。
「デカいの出たよ。80UPは軽くある。」
そう声をかけて陸に上がる。
本当は水の中で計測したいが、ネットが小さくて真直ぐにできない。
申し訳ないが少しだけ濡れた草の上に乗せて計測させておくれよ。
それがなんと92cm。
*(出た!92cm)
中流のこの辺りでの90Cmアップは、仲間内で数年ぶりのことだ。
ミッション達成には余りある、極限を超えたバトル。
初夏の森、ウグイスの谷渡りに共鳴したあの忘れられないメモリアルな出来事。
*(92cm 丸呑み ベリーのスプリットリングが)
アリの70は口の奥底に吸い込まれるように丸呑みされてガッツリ。
リーダーがナイロンだったら歯でダメだったかもしれない。
いくつものラッキーと偶然と、
運命があってビッグトラウトは手に収まるもの。
まして備えていないレベルの大物を華奢なタックルでヒットさせた場合は
持てるすべての叡智も必要だ。
「備えあれば憂いなし。備えよ常に。」
万全の準備があったからこそ限界を超えたファイトを制することができたのだ。
*(計測92cm すぐに水に戻します)
そしてリリースした後に気が付いたことがある。
ベリーフックの#3フォージスプリットリングがひん曲がって伸びて、
破壊寸前だった。本当にやばかった。
これもまたギリギリのファイトを物語っている。
*(リリースは丁寧に)
キャンプサイトに戻ると、その後は大変だった。
仲間が集まり、賞賛と歓喜の嵐。
そして、ヒーローのアリ70に皆の興味と感嘆が集中するのであった。
それはなんだ?いつ発売なのか?何グラム?
熟成の域に入ったアリの70がこの状況を打破した現実。
恐るべきポテンシャル。
道北の二つの水系で、
92cmを筆頭に72cm、55cm、70cm級掬いそこない、
80cm級喰いそこなってスッポヌケ、40cm~50cm 5匹。
10バイト8ゲットのすさまじい結果。
幻の魚がこの爆発だ。すべてアリの70プロトでの釣果。
このルアーなくしてこのヒットなし。
アリへの僕の期待と確信が、今まさに現実となって炸裂した。
アリ60&70
次のシーズンにはトラウトフィッシングの世界が変わるに違いない。
間違いなく今まで手にできなかったビッグトラウトが貴方の手にも収まる。
未だかつてないゾーン攻略とビビッドなアクションで、
ビッグトラウトフィッシングの時代が変わるのだ。
もうすぐだ、デビューまで・・・
お届けできる時まで僕らも待ちきれない。
完璧なミッション達成と共にサンレアル山口 斉にこう言った。
「OKだ。これで行こう。」
そしてそこには紅潮する2人の顔と、固く強く握りつぶすようなハンドシェイクがあった。
次のミッションは アリ60&70でサクラマス。
そして本流のファイター ビッグレインボーだ。
このミノーのポテンシャルで仕留めるイメージはできている。
あとはフィールドへ・・・・。
少し休んで、また次のミッションへと突き進む。
*(ヒデ 狙うぞビッグワン)
爆発的な報告ができる強い予感がある・・・。
是非、今後のトライアルにも期待していただきたい。
目を閉じてイメージする。キャスト、リトリーブ、アクション・・・。
ドドドドカン!!ガバガバババッツ!
そしてまた眠れない夜が続くのである。
(ネクスト ビッグワンへと 続く。)
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