夏の衝撃
新たなるウルトラヘビー シンキング ミノーイングの世界
(飛騨高山~あの滝壺に幻の夏サクラを見た・・) 田中 秀人
真夏のサクラマス
それも夏マスではなくてフレッシュラン。
この響きを聞いて耳がダンボにならないアングラーはいないだろう。
あの山上湖の湖沼型サクラマスは8月の一雨ごとに遡上を始めるのだ。
あれは35年以上前の青年時代、真夏の山上湖での出来事。
出会ったあの方は仙人であったのだろうか。
真夏の照り返しを激しく映す山上湖の流れ込みで、描き出された太陽と山々の木々がさざ波に揺れ、陽炎の向こうに軽いめまいを感じた暑い昼下がりの出来事。
「何を釣りたいの?」あじかを下げた山師が後ろから声をかけてきた。
「大岩魚か大ヤマメ。」
髭をさすりながら含み笑いでその初老の山師が、一つ間をおいてさらに一歩前。
聞いてもいないのに語り始めた。
「ここじゃないだろうよ。雨後にこの流れを上ったらいい・・・保のダムのヤマメは一雨ごとに川を遡る。深いところ深いところを選んで通りながらな・・・8月にはもう動き出すのじゃよ。」
適当に聞き流している青年にはピンと来ない。
するとその山師が
「わしは川漁師じゃ。アユやウナギを取っておる。するとな・・網に入るのよ・・保の尺5寸・・銀のヤマメは底に張り付きながら少しずつ上流に向かうのじゃ。しかし2尺近いやつは夏には動かんのじゃよ。晩秋までダムにおる・・そいつが川に上がるころは禁漁じゃ。」
「えっつ???」
神通川水系最大の貯水量を誇るこの山上湖 保のダム(ホのダム)は、
春の解禁から5月6月のワカサギ接岸期まで、40cmUPの湖沼型サクラマスが狙える。
その上のサイズもいるのだが、めったには釣れない。
10月も半ばを過ぎると流入河川でペアリングしている真っ赤な湖沼型サクラマスがあちこちで見られるが、それは禁漁期間に入ってからの出来事。
河川遡上の鱒はこの水系で狙うことは出来ないという思い込みがあった。
仙人は言った。
あのリザーバーの湖沼型サクラマス、とある一群は8月遡上するのだと。
それを確かめるにはしばらくの間、トライ&エラーが必要であった。
当時の僕はルアーマンではあるがスプーン、スピナーの使い手で、特に湖でのスプーニングがメインであった。
そこに目うろこの、あの事件が起こるのである。
その流入河川を遡り絶対これ以上遡上できない、いわゆる魚止の滝。
小型のスプーンやスピナーを滝壺に向かってキャストするが沈む間もなく流され、それでも岩魚やヤマメは釣れた。
ひんやりとした真夏の滝壺にて、ふと人の気配を後ろに感じた。
振り返ると誰もいない・・。
それで満足している若者の脳裏にあの仙人の囁きが突然フラッシュバックした。
「尺5寸の大ヤマメが底に張り付いている・・・。8月の一雨ごとに・・」
ふと目にするとルアーケースに細身で重いスプーン、ダイワのハーレー ブルーシルバー 16gが飛び込んできた。(12gだったかもしれないが、もう少し重かった気がする)
6cmのスプーンは細身で、ウエイトが上がっても形は同じで肉厚になってゆく。
山上湖で重宝していた小粒で重いスプーンを滝壺にめがけてチョイ投げし、
スプールを押さえながらフリーフォールさせてボトムに入れる。
ユックリしゃくりあげて、ブレイクラインでロッドを反対に倒したその時、深い滝壺で銀色の塊がもんどり打った・・。生まれて初めて手にしたあの山上湖からの遡上マス。
仙人の尺5寸、45cmの湖沼型サクラマス。
それからしばらくは、夢中でこの釣りを探った。
山上湖の流れ込みから魚止の滝まで、長い区間をくまなく探った。
流れには不釣り合いの重いスプーンをひっさげて。
そして自分なりの釣り方とあの夏遡上マスが止まるポイントも絞れてきた。
止まる場所は何か所もない。いないときは全くいない・・。
さらに川に上がって時間が経過すると、反応が悪くなる。
遡上直後がチャンスなのだ。
簡単な釣りではなく、Xデイを信じて通い詰める忍耐が必要な釣りである。
いつしか僕は「ルアーで釣りたい」から、
「全てプラグで釣りたい」と意地を張るようになり、
あのマスを絶対ミノーで釣りたいとさらにムキになった。
あまりに釣れないので弱気になってジグも試した、ジグミノーも試した。
幅を広げたとしても、スプーン以外で釣りたいとやっきになる。
ここはバイブレーションだろうと、ボトムを攻めてみたが
流れでターンするときにプラグが斜めに傾くと見切られてしまった。
あのマスは底にいる。フローティングミノー、シンキングミノー、ディープダイバー・・
そのどれもがあの聖域のボトムには届かないのである。
いつしか夏場は他の釣り方にのめり込むようになり、知らず知らずのうちにあの滝壺から足が遠のいてしまった。
あれから20年・・・。
ここ数年、没頭してのめり込んでいるスタイルがある。
それはヘビーシンキング ミノーイング全盛の中、さらにその先を行く、
ウルトラヘビーシンキングのプラッギングワールド。
バイブレーションの重さと飛距離と沈下速度でミノーの動き。
そしてガンガン瀬の猛烈な押しの強い本流の底波を飛び出さず、
底を泳ぎ切る流れの中の王者たるミノー。
それが奇跡のウルトラヘビーシンキングミノー ニューカマーの「アリ」なのだ。
ダメ出しを繰り返し、この無理難題をクリアするのには3年以上のフィールドテストを要した。無理と矛盾と難解な宿題をクリアしたこのスーパーウェポンは、すでにあらゆるビッグトラウトに驚異の釣果を出し始めている。
アリの60サイズを手にした時に、すぐにあの夏の日が脳裏をよぎった。
6cmで16g。コンセプトはバイブレーションの沈下速度と飛距離でミノーの泳ぎだ。
そしてどんな早い流れでも飛び出さない流れのマスター専用設計。
嘘だろう?それが本当なのだ。
満を持して夏を待つ。
そして8月・・異常なまでの不安定な天候は酷暑とゲリラ雷雨を交互に繰り返した。
20年前とは気候も川の条件も変わってしまったのか。
ずいぶんとあの川も土砂で埋まって浅くなったようだ。
しかし、絶対に夏に遡るマスがいるはずだ・・・
期待と不安の中、真夏の徘徊が始まった。
毎朝の滝壺パトロールが始まったときには、濁りと増水に巻き込まれていた。
暴れた雷神と龍神が治まる時・・そして次の甘い雨・・。
チャンスは果たして訪れるのだろうか。
タクティクスはこうだ。
滝壺のボトムにアリ60を送り込む。
泡の中にキャストするのではなく滝流れの壁にぶつけて巻き込まれて一気に底に落とし込むのである。ボトムからリズミカルなフルトゥィッチで斜めにしゃくり上げてくる。
そしてここからが肝心要だ。
底に張り付いたマスに直接アプローチするのである。
だからしっかりとボトムを取ること。中途半端な沈め方ではあのマスは反応しない。
ブレイクラインでロッドを反対に倒して角度をつけ、ミノーの斜め横を見せる。
底から喰いあげたマスが体を反転してアリを襲うのだ。
ストレートコースのフルトゥィッチでは見切られ、テールフックを触ってショートバイトになることが多い。
ここまで掴めばあとは毎朝の早起きと、通い詰める根性だけ。
日中の酷暑をさけ、朝一番の滝壺。
滝の霧とマイナスイオンに包まれ、あの深淵のボトムにブレットを打ち込むのである。
8月の我慢比べ2週間、今年の酷暑は本当にこたえた。
しかしついにその願いと募る思いと練りに練ったタクティクスは確信に変わり、
下流エリアの鱒溜まりの岩盤で2本ドカンと出た。
そして最後にあの滝壺で狙いの湖沼型サクラマスがハンドランディングされたのだ。
仙人の声が木霊する。「オーイ・・オーイ・・大ヤマメ釣れたかい。」
あの時と変わらず遡上していたマスは銀ピカのフレッシュランで見事な幅広。
岩盤のスリットにて・・・サイズは一本目の42cm、サイズアップの45cm。
ミノーが底まで入りきらずどうしても出なかった深淵で、
ウエイトアップの7cm 18gにチェンジしてボトムを取る。
この一群の中では特筆のビッグサイズが魚止の滝壺で手にした48cm。
3本のグラマラスな銀塊。
フレッシュランだけれど淡水湖から川への遡上のため、シーランフレッシュのようにボロボロうろこが落ちることはない。それがこの陸封型サクラマスの特徴でもある。
この宝石に出会えた幸せ。
いくら鱗が落ちにくいとはいえ、ネットを使えばハラハラ落ちる。
傷めず無傷の銀鱗に逢いたい。
だからハンドランディングで決めた。
あそこまでガッツリ ベリーフックを食わせたら絶対ばれない。
狙って通い続けた朝一番の滝壺。クロックワークの14日間。
3つのバイト・・その時、35年の時が一瞬で巻き戻されたのである。
タイムマシーンに乗った僕は、
魚止の滝壺の朝もやの中で無心にキャストし続けている17歳の青年を見た。
「はっつ・・・。」と息をのむ。
優しいゴルジェの木漏れ日に包み込まれ、あの瞬きに時が止まり、
滝壺の霧の中に現れた丸い虹の円から仙人の声が飛騨の山々に木霊した。
「おーい・・おーい・・大ヤマメ釣れたかい・・」
TO BE CONTINUED・・・・
使用タックルのスペック
ベイトROD:ノリクラ ロッダーズガン Dr.ボロン 58H プロトタイプ
:ノリクラロッド バンブー トラウト&ストリーム フェザー58MH
ベイトリール:アブ アンバサダー 2501c SJチューニング
:アブ アンバサダー 2601c エリート SJチューニング
ルアー:サンレアル アリ60 UH 6cm 16g
アリ70 UH 7cm 18g
ライン:東亜ストリングス レグロン ワールドプレミアム ナイロン 10Lb
リーダー:フロロカーボン16Lb
*オーバータックルと思われるだろうが、ウルトラヘビーシンキングミノーの根がかり回収とボトムまで送り込む岩盤スリットでの根ズレ対策が必要。
ロッドはウルトラヘビーで引き抵抗が強いアリを使うため、50cmトラウト想定のロッドよりもワンランク強いベイトロッドとベイトリールがマッチングシステムとなる。
岩盤のスリットや、大岩が点在するボトムでのアプローチのためルーズドラッグは禁物。
1.5Kgのドラッグテンションのため、メインラインが細すぎると
ビッグワンのファイト中スプールに食い込んでラインブレイクする場合がある。
そのためにメインはナイロン10Lb以上を使うことを推奨する。
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