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1.トラウト
1.トラウト : 「ダブルヒットのモンスターレインボーと追憶の日々 HAPPY BIRTHDAY TO YOU・・・」
投稿者 : hide 投稿日時: 2016-03-14 05:14:51 (4894 ヒット)

「ダブルヒットのモンスターレインボーと追憶の日々
HAPPY BIRTHDAY TO YOU・・・」

TOKYO ROD & GUN CLUB 田中 秀人

 

河原の土手と岩盤の狭間からネコヤナギが押し上げて芽吹き、

 

長い冬を飛騨で過ごした渡り鳥たちが、

何かに追い立てられるように北方帰行へ急ぎ飛び立つ、春風晴天の一日。

もう最初の一群はあのシベリアに到着しただろうか。

旅の始まりを悠々として急ぐ渡り鳥たちの群れと、高き春の濃紺のキャンバス。

引き締まった空気に抱擁され、

僕は透き通った心と青く静かなる瞳で、いつまでもあの群れを追い続けた。

 

浮浪雲の向こうに、僕らの新しい旅立ちを深く刻んでくれた奇跡のストーリー。

生涯、忘れられない一日になったあのダブルヒット。

狂おしいほど完璧で美しく、そして太く強い至宝のウィルダネス。

ワイルド天然繁殖のモンスターレインボー。

文句の付けようのない、パーフェクトな2本のワイルド ビッグ トラウトとの出会い。

 

あの日の出来事。

早朝5時、まだ暗い時間帯にヒトシのジムニーに乗り込む。

僕らは25年以上の釣友であり志を同じくする者、共にフィッシングタックルを作る盟友でもある。

「世の中に無いから、僕らの釣りのスタイルに必要な道具は自分たちで作る。」

これが我らの合言葉だ。

そんなヒトシとの久々の釣行にいろんな思いが重なる。

目的地は弟分が熱望する本流の下流エリア。

 

状況から、今日はそこではないだろうと思いつつも、彼のチョイスを優先して一路北へ。

僕の感覚ではこの時期の放水がある初期のあの下流域はあまりよろしくない。

現場に到着するが冷水の放水が本流を押し切っている。

釣りにならない水量ではないし、盛期のこの水量であれば絶好なのだが、

3月の低水温期ではこの放水がデメリットとなる。

弟分はここでスタートしたそうだが、ひと声かける。

「釣れないことはないが、可能性は低い。移動しよう」

全くロッドを振ることなく第一チョイスから大移動。

ポイント移動ではなくて川を変える。

県をまたぎ下ってさらに奥飛騨の秘境を遡る。

奥飛騨の山々は岩肌を見せ、あり得ないほど少ない残雪に絶句して、

経験したことがないほどの少ない残雪と岩肌のザラザラした北アルプスを見上げながら、

あのゴルジェ帯を目指す。

「こんなに残雪が少ない3月は記憶にない。これじゃ例年より一か月は季節が早いだろう。」

ユキシロのパターン。ダムの放水パターン。水温の変化。ベイトフィッシュの動き。

どれをとっても、この異常に少ない雪の影響を考えながら組み立てなければならない。

 

3月1日の飛騨の解禁から2週間。釣りをするというよりも、まずはテリトリーの河川

全てを歩いた。

埋まったところ、新たに掘れたところ、特AがB級にBが特Aに、はたまた潰れたポイントもあれば新たに出現したポイントもある。

先ずは今年のマップ作りとポイントのチェックから春が始まる。

この初春の川歩きが僕の一年を全て左右する。

ある意味釣りをするよりも大切なシーズン最初のミッションなのだ。

 

さてその最新版ポイントマッピングをもとに右往左往する訳であるが、

ここから夢遊病のような徘徊が始まる。

先ずは移動先でスタートする。

途中で出入りの出来ない約1.5kmのゴルジェ区間を丁寧に探る。

淵からトロ瀬、ちょっとした岩の後ろの小場所から小さな流れのよじれまで。

絶好のトロ瀬の岩まわりで小ぶりな岩魚が一匹遊んでくれただけで、

全くの低活性状態に絶句する。

さあどうする、迷えるアングラーよ。

これである程度 今日の状況は掴めた。

それは厳しいということ。

 

ここからさらに逃避行が始まる。時にはポイントに入って10投で見切って場所移動。

獣の感と第六感まで駆使して、ビッグトラウトが騒ぐ場所を探し流浪のアングラーと化す。

ここまで全く面白くない話で申し訳ない。

しかしこれが本流でビッグトラウトに狙いを絞って釣りをするスタイルの

苦行と執念の日常なのである。

 

何キロ走ったのであろうか。

午前中で飛騨の北東部エリアを完全走破した。

もはや日が真上に上がろうとする。

午後からは仕事が入っているため釣りのタイムリミットは1時間だろうか。

ここであの最新のポイントマッピングが閃く。

今年新たに良くなったポイントあの瀬が脳裏に浮かぶ。

必ずここにはビッグワンが付くと確信を持っていたポイント。

しかも日中にやる気のあるやつが入ると読んだ白昼夢ドピーカンの瀬。

ドピーカンの真っ昼間。そのタイミングではここだとピンポイントで読み切った。

そのガンガン瀬からトロ瀬そしてトロ場へと変化する長いポイントでさら区間を絞って

アプローチする。

普段ここまで詳細なピンポイントのガイドは、ほとんどしない。

それは、川を見て歩いて自分で見つけないとアングラーが進歩しないからだ。

アウェーの地でガイドに頼ることは大切なことだが、いつも据え膳の釣りをしていると

釣り師としての獣の感や野生の感性はどんどん退化してゆく。

情報がなければ釣りができない、頭でっかちのダメな釣り師に成り下がってしまう。

とにかく川を歩くこと。釣りのテクニックよりも何よりも大切なことである。

 

しかし今日は、アリ60&70の完成、今まさにデビューするこのタイミングで、

ヒトシにもその狂気のポテンシャルを体感してほしかった。

だから、ピンポイントのポイントマッピング アプローチを決行した。

「ヒデさん・・えっつ?ここに入るのですか?」

彼もプロだ。いつも川を見ている。しかし・・・。

それは、飛騨で育ったヒトシでさえスルーしてしまうような全く無名のポイントである。

 

いきなり瀬の核心ポイントに入る。

飛騨地方333,020ヘクタールのなかのピンポイント。狙いはわずか100mの区間。

水深1.5mの瀬のボトムにアリ70を沈めて、底から10cm切って底の変化と点在する

一抱え大からバスケットボール大の底石を読み、

獣道を優しく縫う様にウエットなトゥイッチでなぞってゆく。

ボトムのずる引きでも転がしでも無い。

少し底を切ることがテクニックの要である。

通常のヘビーシンキングミノーでは成し得ない、

重い瀬の中での10cm底を切ったボトムライントレース。

それもできるだけ遅く引く。早引きは厳禁である。

これはもはやアリ60&70の独断場だ。

どのミノーもこの瀬の底波には入らない。

それも、瀬の中をフルトゥイッチでボトムラインをトレースし、さらにできるだけゆっくりミノーを引いて泳がせるという、不可能を可能にした獣のミノーである。

6cmで16g、7cmで18g。これはジグミノーなのか?

いやウルトラヘビーシンキングミノーだ。

淵やトロ場、止水でボトムを取ることは重く沈むルアーならば可能であろう。

スプーンであろうと、ヘビーシンキングミノーであろうと、バイブレーションであろうと、はたまたジグミノーでも良いだろうし、シンキングペンシルも魅力的だ。

しかし、複雑な本流の強い瀬の中でボトムラインをフルトゥイッチでトレースする事は

このアリでしか出来ない芸当なのだ。

この無理な要求を突きつけたのがこのプロジェクトのスタートである。

次世代のウルトラヘビーシンキングの世界。

ヘビーシンキングミノーイングのその次を行く新しいスタイル・・・僕の答えはこれだ。

「ウルトラヘビーシンキングの激流ボトムトレーシングメソッド」

バイブレーションの飛距離と沈下速度で、

ヴィビッドなローリンウォブのウルトラヘビーシンキングミノー。

僕のリクエストの、その答えをサンレアル 山口 斉が実現してくれた。

さらに激流で飛び出さず、それ以上に重い流れに喰いこんでゆくスイムバランスと安定性。ガンガン瀬で早引きしても水をギュッツギュッツと噛んでゆくポテンシャル。

ハイスピードリール止水にて全力で早巻きしても、

同じレンジで足元まで真っすぐ泳いでくれるバランス。

S字に泳いだり、ノーアクションなのにヒラを打ったり、泳ぎが逃げたらもう落第だ。

それもあり得ない重量のウルトラヘビーシンキングミノーという重い厳しい課題。

そんな夢のような話は実現不可能だろう?いやそのハードルを僕らは越えたのだ。

ヒデから提示された宿題を見事にクリアした

アリ60&70 新世代のニューカマーが時代を変える。

ダメ出しを繰り返し、時には基本設計からゼロにまで叩き落されて、

それでもあきらめず不可能を可能にしてくれたルアーデザイナー 山口 斉。

僕は当初からコンセプト、使用方法、用途まで明確にイメージを持っていた。

その欲しいけれど、今までなかったプラグの開発

僕らは、どこにも存在しない次世代を担う狂気のミノーを作り出したのだ。

 

そんなアリを手に特別な釣行となる。

確信の瀬に立つ。

あの出来事が起きるまで20投と時間はかからなかった。

ヒトシには僕が開発中のベイトロッド、

NORIKURA Dr.BORON 71Hプロトとアリ70セッティングを手渡す。

「ちょっとこれ使ってみて。バッチリ アリとマッチングシステムだよ。」

僕の手にはヒトシのタックル。

すこしモタッとして自分にはフィットしないけれど、しばらくこれでヒデはやる。

 

こういう時に限って何かが起きるものである。

ヒデのリトリーブがトスッツと止まった。

ボトムを這うように絡みつくアリ70を突然ビッグレインボーが襲ったのだ。

抑え込むような、梅花藻に引っかかったようなモゾッとした小さな当たり。

リトリーブが止まった瞬間にガツンと合わせる。

もぞもぞと動き出したかと思ったら一気に上流に向かって、ジグザグに泳ぎだした。

よく見るとそのすぐ後ろにもう一本巨大な影が追尾している。

ペアリングしている相方は何が起こったのか理解できず、

ヒットした巨大なレインボーと並走している。

何たることだ・・・

そして1メートルのハイジャンプだ。

ドーン!跳びあがってヘッドシェイク一発でルアーが空中を舞った。

「しまった。なれないロッドで合わせが甘かったか・・。」

解放された途端に下流へと消え去る巨大なレインボーと

それを追尾する相方のビッグワン。

ペアリングで下に消えた。

 

下流に立つヒトシに声をかける。

「おーい。でかいレインボーばらしたよ。」

声が届いたのか聞こえないのか、夢中でキャストを続けるヒトシ。

すると・・なんと・・

「ヒットーッツ!!」な なに!!

「でかいぞ!レインボーだ。」叫ぶ。

目をやるとドーンと跳びあがった巨体。

デカい!軽く60cmアップだぞ。

「慌てるな、一気に寄せるな・・離れてファイトするのだ。」

岩に向かって突っ込むスピードスターを止めると、またしても空へとファイトする。

ドーンドーンドバーーッツ!!連発で空中戦を仕掛けてくる。

「アッツ!もう一匹いるぞ。」

近づくとファイト中の巨大レインボーの後ろを
もう一匹巨大なレインボーがついて回っている。

なんと今さっき僕がバラシたオスの60cmオーバーワイルドレインボーが

巨大なメスのファイトに追尾して絡んでいるのだ。

なんということだ・・・奇跡のダブルヒット。

 

一瞬すきを見せて寄ってくるが、再ターボがかかって一気に流心へ。

寄せては走り寄せては走り、6発跳んでようやく寄ってきたが足元に鋭利な岩がある。

「その岩を注意しろ、突っ込まれたら切れるぞ。」

一瞬ひるんだら、今度は下にダッシュした。

下流にはテトラ・・・突っ込まれたら終わり。

「止めろ!止めろ!」今度はスプールを抑えて強引に止める。

なんとか止まった・・・

デカくなる奴は賢い。だからここまで大きくなったのだ。

相手にとって不足なし。

そして2匹のレインボーは15分の物凄いファイトの間、並走と追尾を重ねた。
相方は最後の最後まで、ヒットした一方の傍を離れなかった。


凄まじいファイト 6発の跳躍。
ヒトシが究極の獣とのファイトを制して、ヒデがアシストネットイン。

65cmのメス ワイルドモンスターレインボー。
軽く4Kg超え 推定4.3kg(かなり近い推測値。経験から)


完全無欠の全鰭尖った究極のスーパーレインボー 天然繁殖タイプ。

 

僕らの願いは一つ・・・。
生きて相方とともに・・・生きて次の子孫を残してほしい。
ランディング後に決して水から出さず
最低限の写真撮影を速やかに行い、相方のもとに元気よく返した。
ものすごい勢いで戻ってくれた。
また寄り添って2匹。 あの流心の底に張り付いているに違いない。

決してこのワイルドタイプは殺してはいけない。
少しだけその眼光を見たいだけなのだ。
写真一枚あれば十分だ。


物凄いレインボーと
生涯忘れられない斉と僕のメモリアルな出来事。
一生の中で僕らが共に釣りをした中のこの日の記憶遺産。
ヒトシ、山積みの宿題に苦労続きの今日この頃。
そして今日の、彼の震える膝と潤む目を僕は一生忘れない。
奇跡の出来事 あの日の追憶。

 

山口 斉よ

デザイナーとしてビルダーとして、無理難題を形として実現させた実力。

文句の付けようのない完璧なワイルドビッグレインボーを仕留めた

アングラーとしてのファイティングスキル。

今まで君を褒めたことはほとんどなかったけれど、

今日は最大限の敬意をもって褒め讃えよう。

「でかしたぞ。本当によくやった。今日がヒトシの第2の誕生日と認めようじゃないか。」

そして今、誕生の時を迎え世に出る狂気のミノー 、アリ60&70よ。

君たちに最大の賞賛と讃美歌を捧げ

高らかに謳い上げようじゃないか。

 

ヒトシとアリとワイルドレインボー・・・?

HAPPY BIRTHDAY TO YOU・・・?

HAPPY BIRTHDAY・・・?

 

2016年 3月 田中 秀人
 


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